形成外科と美容外科―基本と修練

HIKO HYAKUSOKU
11月6日
読了時間: 4分

百束比古＃美容外科後遺症外来

現在の所属：水道橋駅前・スクエアクリニック・デンタル医科部門院長

４． 形成外科と美容外科―基本と修練

大学教育における美容外科に類する学問は、「形成外科学」にあります。

形成外科学では、人体のパーツを作る、キズアトを綺麗にする、人体の形を整える、人をより美しくする、壊れた人体の部分を修復する、皮膚外科、などを専門の学問としています。まさに、美容外科がそれらの一部です。形成外科の英語表記は、Plastic Reconstructive and Aesthetic Surgery であり、美容外科も含まれています。

また、日本の美容外科専門医は、形成外科専門医をもっていなければ取得できません。つまり、日本形成外科学会専門医の２階にあります。実際に、臨床研修終了後６年以上で形成外科専門医を取得してさらに４年間以上、美容外科を研修しないと取得できないのです。それほど厳しく長い年限を必要としているので、「直美」で美容外科医になるなんて考えられません。

（１）よくある誤解

美容外科医の方が傷跡がきれいーそんなことはありません。それどころか、形成外科医は瘢痕ケロイドの診療ができますが、美容外科医の大半はできないでしょう。

美容外科医の方が手術がうまいーそんなことはありません。勿論、美容外科医で経験があれば、手術のうまい医師はいるでしょうが、形成外科医にも大勢います。

美容外科医の方が美術的センスがあるーそんなことはありません。（２）を参照にしてください。

（２）美容外科のセンスと形成外科

確かに形成外科を選択する医師には、芸術とくに美術的なセンスがあったり、芸術と二股をかけている医師が多いかもしれません。そう言う医師が長じて美容外科医を目指すことはあるかもしれません。実際に、形成外科は正常な形態の復元を仕事とするので、美容外科のセンスは必須です。従って、美容外科の手法も形成外科に含まれるのです。

（３）全身を診る外科系科目としての形成外科と美容外科

医学の本分は、病気や外傷の患者さんの苦痛や苦悩の除去と延命、救命です。それゆえあらゆる手段の学習を要します。とくに、外科系の科目では、人体にメスを入れても、犯罪にはならない代わりに、何が起こっても患者さんを決して死に至らしめることがないように、あらゆる治療手段を講じなければなりません。

（４）施術医の道義的責任

医師の仕事は患者さんに責任があるから報酬もそれなりなのです。万が一患者さんに生じる合併症や後遺症に対して、治療の責任があるのです。

例えば、麻酔による事故、アナフィラキシーショック、投薬による内臓障害、感染症やそれによる敗血症、血管障害による組織壊死、失明、出血性ショック、血腫による気道閉塞、神経障害（運動あるいは知覚）、などなど挙げたらキリがありません。極まれには死に至ることもあります。

これらは、形成外科の手術でも、美容外科の手術でも起こり得ます。すべては、施術医の道義的責任になります。

大学の医局や大病院の形成外科では、責任者は部長なので、各医師はトラブルの責任は部長になりますが、トラブル解決の教育も部長が負うので、問題の多い医師は人事に関わることになります。

同様なシステムが「直美」のチェーン店形態の医療グループにあるのか知りませんが、トラブルの多い医師は、退職させられるか配置換になる事があるようですが、それが教育なのかは疑問です。

（５）緊急時の紹介施設

施術医の責任には、早期発見して妥当な施設に紹介することがあります。しかし、大学病院や大病院には派遣や嘗て所属した医師の口利きが優先される場合があります。何となく、知り合いの医師からの依頼には無理しても対応すると言う傾向は否めません。同時の依頼なら知り合いの医師からの依頼の方が情報を取りやすく、あとの責任に対する信頼もあるからです。緊急時にはそう言う繋がりは重宝です。

下図上は口唇裂の形成手術（左：清吾か月の手術前、中：手術後３年、右：２０歳時の状態。形成外科が美容の視点で手術すると言う典型例）

図中は、先天性の小耳症の形成手術。左は７歳での手術前のデザイン。肋軟骨を組み当てて埋め込む。右はその完成後の状態。芸術的センスが執刀医に求められる典型例。

図下は、皮膚癌による鼻切除後、前額部からの遠隔皮弁で修復した例。

（左）」癌切除後の鼻欠損の状態。（右）再建された鼻。美術的センスが必要な形成外科手術の典型例。