13.豊胸術の歴史と現在――今でも絶対安全な方法はない
- HIKO HYAKUSOKU

- 1月28日
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新規X版
百束比古#美容外科後遺症外来
改めて自己紹介です。
姓名:百束比古(ひゃくそく・ひこ)
現在の所属:水道橋駅前・スクエアクリニック・デンタル医科部門院長
Ph:03-6272-8787 E-mail:info@hiko-sq.com
13.#豊胸術の歴史と現在――今でも絶対安全な方法はない
バストを盛ることは多くの女性の願望のようです。
安全でキズのつかない方法があれば、多くの女性(ときにはトランスジェンダーの方)の夢が叶うのでしょう。
しかし、50年の豊胸術後遺症診療の私の経験から、はっきり言います。
「今でも絶対安全な方法はないと。」
① 歴史的な異物注入法
古くは、1999年にドイツの医師ガースニーによる、パラフィン注入の後遺症の文献が見られるように、生体への異物注入の歴史は古い。注入に用いられた物質は、シリコン、パラフィンなどの炭化水素にはじまり、シリコンジェル、ハイドロジェル、と変遷した。いずれも、異物性肉芽腫による「シコリ」の形成を局所的後遺症、ヒト・アジュバント病の罹患の可能性、他部位への流動、乳癌の早期診断の阻害など問題点が多く、現在では行われていないはずである。
② バッグ挿入法
異物をシリコンゴムや塩化ビニールなどの袋に封入した、豊胸用バッグが1980年代から多用された。内容物には、当初シリコンジェルが汎用されたが、X線で陰影(radiopaque)となり、乳癌の診断を阻害すること、破潰すると注入と同じになって同様の後遺症を遺す危険があることなどから、1990年代には生理食塩水、ハイドロジェル、などが主流となった。しかし、生理食塩水バッグは感触の不満、気圧の変化で含まれる微量の空気がバッグの破裂を誘発する不安などから、廃れていった。また、ハイドロジェルバッグは、成分であるポリアクリラマイドがモノマーだと発癌性があるなど、成分の保証が明確でないと言う危惧からこれも廃れて行った。
③ 今も残る異物注入法
これには、アクアフィリングTMと称する、恐らくポリアクリラマイドと、ヒアルロン酸(サブQTM)がある。いぜれも、水分が殆どで吸収されやすいが、異物肉芽腫の形成は高率に発生し、①で示した歴史的な注入物質による後遺症と大差はないようである。なお、注入法は医師でなくても、注射だけで行えるので、ニセ医者や看護師単独での施術がとくに途上国で問題視されている。
④ 自家脂肪注入法
1980年代からと思われるが、下腹部や大腿部からの脂肪吸引で採取した自家脂肪を、注射器で乳房部に注入すると言う豊胸術が一部の美容外科で行われた。しかし、自家脂肪が完全に生着することは考えられず、結果として脂肪の大部分は融解して、パラフィンのような炭化水素系注入異物となって、シコリを形成するに至った。
しかし、2000年代に、米国のコールマンと言う医師が、細分化した脂肪を分割して注入すれば、脂肪細胞の生着が促され、シコリの形成は最小限に抑えられるとして、その方法を「コールマン法」として世界に発信した。また、日本の吉村は脂肪から抽出した幹細胞を混合することで、自家脂肪の生着率を上げると言う方法を開発した。しかし、それらの改善によっても尚脂肪の完全生着は望めず、異物肉芽腫の発生は回避できなかった。
⑤ 現在最も安全とされるコヒーシブシリコンバッグ挿入法
2000年頃から、破潰しても内容物が流出し難い、固めのシリコンを封入したバッグが非注入法の主流になっている。但し、美容目的で生体内にいれるため、通常は両側の腋窩(わき)に長さ3から5cmのキズができることである。従って夏にタンクトップなどのわきを出す衣服がきにくいとの苦情が多い。
⑥ 豊胸術後遺症の実態
本題であるが、現在来院される「豊胸術後遺症」について説明する。
女性の寿命が飛躍的に伸びたせいか、1950年代に注入法で炭化水素系物質を入れて、岩のように固い異物肉芽腫などの酷い後遺症を有しながら、恥ずかしくて70,80代になって初めて訪れる患者さんにも何人か遭遇した。
(左)シリコンジェル注入後の乳房変形。(右)シリコン注入後の多発性のシコリ。

(下図)注入されたシリコンジェルのMRI画像。

(左)シリコンジェル注入による豊胸術後の乳癌合併。(右)ハイドロジェル除去の実際。

シリコンバッグの埋入20年後のバッグの劣化によるシリコンジェル漏出。こうなると、シリコンジェル注入と何ら変わらなくなる。


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